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早野忠昭 × 広津崇亮

「線虫」を用いたがん検査『N-NOSE』を開発し、2020年1月の実用化を目指す「株式会社HIROTSUバイオサイエンス」。尿1滴から高精度で超早期がんも検知でき、なおかつ検査費用も安価という、画期的な検査方法を確立されました。今後、がん検査が人々にとってさらに身近なものとなり、早期発見できることが当たり前になっていくことが期待されています。今回は、JAAF RunLinkの賛助会員でもある株式会社HIROTSUバイオサイエンスの広津崇亮社長に、『N-NOSE』の現在や、ランナーとがん検査の親和性、そしてアクティブで健康な人が増える未来への期待についてお話を伺いました。

早野忠昭

早野忠昭(はやの ただあき)

1958年生まれ。長崎県出身。一般財団法人東京マラソン財団事業担当局長・東京マラソンレースディレクター、日本陸上競技連盟総務企画委員、国際陸上競技連盟ロードランニングコミッション委員、スポーツ庁スポーツ審議会健康スポーツ部会委員、内閣府保険医療政策市民会議委員。1976年インターハイ男子800m全国高校チャンピオン。筑波大学体育専門学群卒業後、高校教論、アシックスボウルダーマネージャー、ニシ・スポーツ常務取締役を歴任。

広津崇亮

広津崇亮(ひろつ たかあき)

1972年山口県生まれ。株式会社HIROTSUバイオサイエンス代表取締役。博士(理学)。1997年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。同年サントリー株式会社に入社。翌年退社し、東京大学大学院博士課程に入学。線虫の嗅覚に関する研究を開始。2000年、線虫の匂いに対する嗜好性を解析した論文が英科学誌『ネイチャー』に掲載。2001年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、京都大学大学院生命科学研究科研究員、九州大学大学院理学研究院助教などを経て、2016年より現職。線虫を利用した早期がん検査『N-NOSE(エヌ・ノーズ)』が2020年1月に実用化予定。

安さ・手軽さ・精度の高さを
すべて兼ね備えたがん検査の実現

がん検査をもっと身近な存在に

早野 ■
HIROTSUバイオサイエンスが開発された、『N-NOSE』とはどのようなものなのでしょうか?
広津 ■
『N-NOSE』は「線虫を使ったがん検査」です。たった1滴の尿から90%近くの精度でがんを検知でき、ステージ0〜1のがんの早期検知も可能と確かめられています。線虫は優れた嗅覚を持つ生物で、人間の尿からがんの匂いを嗅ぎ分けることができるんです。また、これまでのがん検査は、精度が高くなればそのぶん費用も比例して高くなり、どうしても検査費用が高価になっていたのですが、線虫は飼育コストが安いため検査費用を1万円以内と比較的安価にできます。これからは、がん検査が「毎年手軽に受けるもの」になっていくことが期待されます。
早野 ■
今は、実用化の準備をされているところなんですよね。
広津 ■
ちょうど、2020年1月の実用化を発表したところです。それと、今回実用化する技術は、「身体のどこかにがんがある」ことは高い精度でわかるのですが、がん種の特定には至っていないので、次のステップとしてがん種が特定できる検査技術の開発も進めています。最初のターゲットは、すい臓がんです。すい臓は、ほかの臓器に囲まれた場所にあるため、がんも見つかりにくいんです。
早野 ■
早期発見が難しいということですね。
広津 ■
そうです。そこで、線虫に「すい臓がんの匂い」を識別させることで、すい臓がんを、高精度で安価に早期発見できる検査方法を確立しようとしています。この研究はすでに結構進んでいて、先もだいぶ見えてきたところです。
早野 ■
僕はがん家系なので、これまでも検査に行きたいなとは思っていたんですけど、忙しかったり、お金がかかるんだろうなというイメージもあって、ついつい後回しにしてしまってきました。だから、安くて気軽に受けられるというのはとっても良いですよね。
広津 ■
おっしゃる通り、これまで「安さ」「手軽さ」「精度の高さ」をすべて兼ね備えたがん検査は世の中にありませんでしたから、多くの人にとって検査が身近なものになるのではないかと思っています。『N-NOSE』の実用化を機に、健康な人たちも日常として検査を受けるようになってくれれば、がんで亡くなる人もぐんと少なくなると考えているんです。

早野忠昭 × 広津崇亮

優れた技術は、世の中に受け入れられてこそ

早野 ■
すごく消費者目線で考えていらっしゃいますよね。どんなに優れたものがあっても、実際に利用する側にとってハードルが高すぎればせっかくの価値を発揮できませんから。RunLinkとしても、あくまでもランナー目線に立ち続けるというのは大切にしていることです。
広津 ■
一般の方々の声を聞くって大事なことですよね。自分がどんなに素晴らしいと思っていても、世の中に受け入れられなければ結果的に意味がない。科学者として、そういったもったいない事例も山ほど見てきました。だからこそ、良い科学技術を広げるためには、一般の方にどうアピールするかが重要だと考えています。
早野 ■
そのお考えは、研究者一本でやられていたころからずっと持たれていたんですか?
広津 ■
そうですね。私自身が、どちらかというと日の目を見ない研究をしてきたからかもしれません。線虫は生物界ではポピュラーですが、広く世の中に知られているかといわれればそうでもありません。それでも、自分たちは意味があると思って研究してきたのですが、いくら良い論文を書いても誰も注目してくれなかったんですよ。
早野 ■
僕らにとっては何かよくわからない世界の話だと思っていた「線虫」を、身近な「がん」と結びつけたというのが成功の糸口なんでしょうね。
広津 ■
はい。それまで、線虫というのは基礎研究の生物だとみんな思っていたんです。その中で、私が研究室を持ったときに、「せっかく線虫はいろいろな能力を持っているのだから、世の中に役立てられるのでは」と思いついたタイミングがあって。それで、当時はがん以外にも、たとえば“寿命を延ばす”ことだったり、いろいろなことに紐づけて研究をしていました。そのうちのひとつが、がんだったわけです。
早野 ■
社会の様々な価値と結びつけるという発想は、とても大切ですよね。我々も、ランニングをほかの要素と結びつけて楽しむ“Fusion Running”の考えを持っているので、大変共感できます。

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