MENU MENU
鈴木大地 × 早野忠昭

SPECIAL ISSUE
第2回
鈴木大地 × 早野忠昭

RunLinkの設立時から後援として名を連ねている、2015年に新しく文部科学省の外局として設置されたスポーツ庁があります。そして現在、その長官を務められているのが、かつて世界大会で結果を残せていなかった日本競泳に4大会ぶりの金メダルをもたらした元水泳選手の鈴木大地さん。現役引退後、医学博士号を取得。コーチ留学としてコロラド州ボウルダーに移った際に早野さんと出会ったという鈴木さんは、RunLinkの意義をどのように捉えらているのでしょうか。今回は、「体育とスポーツの違い」「未病」「アスリートのセカンドキャリア」など様々なテーマを横断しながらトークを繰り広げていただきました。

鈴木大地

鈴木大地(すずき だいち)

競泳選手として1984年ロサンゼルス、1988年ソウル五輪に出場。ソウル五輪では男子100メートル背泳ぎで、日本競泳界に16年ぶりの金メダルをもたらした。順天堂大学大学院を卒業後、米コロラド大学ボルダー校客員研究員、ハーバード大学のゲストコーチなどで留学を経験。2007年には順天堂大学で医学博士号取得し、2013年同大学教授。同年には日本水泳連盟会長、日本オリンピック委員会理事に就任。2015年10月より現職。また2016年10月にはアジア水泳連盟副会長、2017年7月には国際水泳連盟理事にそれぞれ選任された。

早野忠昭

早野忠昭(はやの ただあき)

1958年生まれ。長崎県出身。一般財団法人東京マラソン財団事業担当局長・東京マラソンレースディレクター、日本陸上競技連盟総務企画委員、国際陸上競技連盟ロードランニングコミッション委員、スポーツ庁スポーツ審議会健康スポーツ部会委員、内閣府保険医療政策市民会議委員。1976年インターハイ男子800m全国高校チャンピオン。筑波大学体育専門学群卒業後、高校教論、アシックスボウルダーマネージャー、ニシ・スポーツ常務取締役を歴任。

制度を作れば人は動く

早野 ■
あとは、時間と場所、インセンティブの問題があります。単に「健康に良いからやれ」と言われたところで、やれない。だって、朝から晩まで会社で働いて家に帰るのが深夜だったら、どこにも余裕がないじゃないですか。そんな時に制度が助けになります。日本は運動している人が何かしらの形で評価されるようにしなきゃいけない。企画力や営業力と同じようにカテゴリを作って、給与や昇進にダイレクトに反映させないとダメじゃないかと。
鈴木 ■
スポーツ休暇みたいなものを作りたいですよね。
早野 ■
まさに。陸連として皆様の職場にも、一日の労働時間の中に昼の休憩とは別に1時間の自由時間を設けようと思っています。その時間をランニングにあててもらっても問題ないだろうと。
鈴木 ■
これは未病の話にも繋がりますね。アメリカやフランスは特に未病を重視していて、一部ではジム代が保険でおりるところも。私の母校はもともと医学学校から歴史が始まったのですが、実は病気にならない身体を作るために体育学部ができた、という背景があります。運動習慣がある人は日頃から脂や塩分を控えたりしていて、生活全般に意識が高い。じゃあ、暴飲暴食している人とヘルシーな人の保険料が一緒でいいのか、という問題が出てきて。
早野 ■
あと、給料も一緒でいいのか(笑)。例えばボーナスの額に差がつけば、そこではじめてみんな真面目に取り組むはず。あとは価値観の話もあります。この前、ここで対談させていただいたHYDEさんは、ずっと走っていることを公にされていなかった。その理由は「健康的なロッカーなんて格好悪い」と思っていたからだと。だけど最近では、「腹が出ているのにロックやっている方が格好悪い」と思うようになったらしいんです。
鈴木 ■
そういう方たちがフロントランナーで頑張って、新しい文化が作られていくんですね。僕も13階まで階段を使って通勤していたら、周りにもそれを真似する人が出てきましたよ。

ランニングと他分野の化学反応

鈴木大地 × 早野忠昭

早野 ■
企業の力も重要です。今、RunLinkの賛助会員として30〜40の企業に入っていただきました。ランナーに最適な食事、飲み物、移動手段……ここでは、ランニングを核にしてあらゆる業界に広がっていく仕組みを作ろうとしています。音楽を聴きながら走っている姿を見てもわかる通り、ランニングには他ジャンルの企業を巻き込む要素がたくさん眠っています。鈴木さんだって走り終わった後にビール飲むでしょう?
鈴木 ■
はい、たしかに飲みますね(笑)。
早野 ■
「ランナー用のビールだったらカロリーをハーフにしましょう」とか、周辺に産業がどんどん生まれてくるわけです。
鈴木 ■
そういう意味では、これは地方にも派生していきそうですね。東京って都市としては魅力的なんだけど、スポーツができる場所が多いとは言えない。でね、最近私の周りで地方に移り住む人が多いんですよ。
早野 ■
ああ、それは僕も実感していますね。
鈴木 ■
要は、土地は広いし施設は充実しているしで、思う存分スポーツをやるには地方の方がいいんだと。つまり、東京でやってきたことの半分の規模でも仕事ができたら、総合的には良いライフスタイルを送ることができる。すでに感度の高い人たちはそれをやり始めているから、これから大多数の人たちが追従していくフェーズに入りますよ。
早野 ■
そこで重要なことは、競技以外に「ウェルネス」の考え方を定着させることですよね。だから僕も、できるだけ“遠く”の人と繋がってコミュニケーションをとるようにしています。そこから文化を形成して、あとはスポーツ庁や経団連も味方につけながら、制度の面でも変革を起こせたらと。
鈴木 ■
やりましょう。スポーツ庁としても、競技の人だけじゃなくマーケティングや財務に強い人を競技団体に入れることを推奨しています。今は世の中の動きを素早く察知できる人材が必要不可欠ですから。
早野 ■
たしかに、外部からきちんとカルチャー全体の状況を把握している人たちと手を組むことが重要ですよね。内部には「そんなことを言うお前はオリンピックに出たことがあるのか?」みたいな文化が根強く残っているので。そこで鈴木さんが出てきたら誰も文句は言えない(笑)。
鈴木 ■
僕はもう自分がオリンピアンだったことを忘れかけていますが(笑)。それに、ボウルダーではフランク・ショーター(1972年のミュンヘンオリンピックで金メダルを獲得した元マラソン選手)と一般人が同じ場所で練習していたりするので、その光景を日本でも実現させたい。あと、僕に関していえば、もう水泳の競争はお腹いっぱいなんです。だから4年前、ワールドマスターズゲームズという生涯スポーツの世界大会に出場した時も、水泳ではなく10kmランにエントリーしました。純粋な自分の楽しみとして、遅くてもいいから走りたい。下手でも弱くてもオーケー、それでも楽しめるんだ、っていうことをアピールしたくて。
早野 ■
結果はいかがでしたか?
鈴木 ■
1時間2分。全体でみると遅い方なんですが、他人じゃなく昨日の自分と比べてやればいいんだと思います。
早野 ■
それは良い言葉ですね。

PICK UP