早野忠昭 × 菅原小春

国際陸上競技連盟が支援する世界的な取り組み「Global Running Day」(毎年6月第一水曜日)に合わせて、JAAF RunLinkは今年6月1日(土)~6月9日(日)に「Running Week 2019」を開催。期間中は渋谷を拠点に、多種多様な「ランニング」の魅力に触れるランイベントやトークセッションが行われ、大盛況のうちに幕を閉じました。その中で、正にGlobal Running Day当日、『渋谷からランニングカルチャーの未来を考える ~表現者・菅原小春氏を迎えて~』と題し、ダンサー/振付師の菅原小春さんをゲストに迎えてのトークセッションを開催。ランニングとダンス、それぞれ違う分野から見たカルチャーの現状や今後の姿、さらにご本人のダンスに対するアツい思いまで、様々なお話を伺いました。

早野忠昭

早野忠昭(はやの ただあき)

1958年生まれ。長崎県出身。一般財団法人東京マラソン財団事業担当局長・東京マラソンレースディレクター、日本陸上競技連盟総務企画委員、国際陸上競技連盟ロードランニングコミッション委員、スポーツ庁スポーツ審議会健康スポーツ部会委員、内閣府保険医療政策市民会議委員。1976年インターハイ男子800m全国高校チャンピオン。筑波大学体育専門学群卒業後、高校教論、アシックスボウルダーマネージャー、ニシ・スポーツ常務取締役を歴任。

菅原小春

菅原小春(すがわら こはる)

1992年生まれ、千葉県出身。幼少期から創作ダンスに励み、数々のコンテスト で優勝。高校卒業後に渡米し、独自のダンススタイルを確立する。国内外の人気アーティストの振り付けや、 ダンサーを務める傍ら、有名ブランドの広告、ラジオ、テレビ番組 の出演など多方面で活躍。現在は日本を拠点に、世界各国でワークショップを開催。2019年NHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」にてドラマ初出演。

Fusionの考え方でカジュアルなランニングを

早野 ■
実は、このトークイベントの直前に「菅原さんは走るのが嫌いらしい」と伺っていたんですよ(笑)。
菅原 ■
あんまり好きじゃないですね(笑)。あと、走るっていうと、私にとってはかっこよすぎちゃう気がしてて。
早野 ■
好きじゃないにしても、何かのために走ることはありますか?
菅原 ■
「昨日ちょっと飲みすぎたから走ろうかな」とか。もしくは、1日汗をかかないと罪悪感に埋もれて苦しくなってしまうので、それをなくすために走ることはありますね。
早野 ■
私は、何でもいいから自分の好きなものをランニングにくっつけてみる「Fusion Running」という考え方をずっと打ち出してきたんですけど、これはランニングをカジュアル化するためなんです。「罪悪感を消すため」なんて、菅原さんの走り方はまさにそれですよね。犬の散歩目的でも、音楽を聴くついででも、あるいはビールを美味しく飲むためでもいい。ちなみに、恋人と一緒に走るのは「Fuse Love」って呼んでますよ(笑)。
菅原 ■
素敵ですね。今私がやっているダンスも、モダンダンス、バレエ、ヒップホップ……いろんなものが“フュージョン”してできている「Urban Dance」というジャンルです。さらに私個人のことでいえば、ファッションや演技の世界にも出入りさせてもらって、ダンス以外の要素からも刺激をもらっています。ダンスという幹があって、でもいろんな枝から花を咲かせたいというか。そうしたらもっと若い子たちに希望を与えられるかなって。
早野 ■
まさにFusionですよね。
菅原 ■
ただ、最近はダンスが安っぽく見られている気もするんです。本当はクラシックバレエのように、お客さんが「あなたのダンスのために」と1公演1万5千円くらい払ってしかるべき。「ダンスを観るためにお金を払う」という行為自体、もっともっと美しいことだと思うから。特別な洋服を着て、好きなアーティストのダンスを観にいく、そんな光景がいつか実現するといいなって。少なくとも私が人の前に立つ時は、常に自分のダンスを人に捧げるつもりでいます。観客の人生の一部になるわけですからね。今は窓口こそ広いけど、とても薄っぺらいものになりつつあるようにも感じています。

菅原小春

本能のままに、ピュアに

早野 ■
人間って、「褒めてもらいたい」とか「頑張った自分が好きだ」とか、ナルシシズムが必ずどこかにあるんですよね。僕らは競争の中で生き残ってきた、つまり種の保存の法則によって生きていますから。それを踏まえて考えていくと、身体で表現すること、身体を動かすことは、生きる上で絶対に欠かせません。子供って、自然と歌ったり踊ったりしながら遊ぶじゃないですか。それって別に教えていませんよね。本能の部分なんです。僕らは今、ランニングにおいてその本能の部分をつついていくような取り組みをしています。
菅原 ■
たしかに、「日本人はあまり踊らないよね」って言われることが多いけど、日本人でも子供はみんな踊っている。それが大人になっていくにつれて、社会のルールや人目を気にしていくようになって、ピュアな感情を忘れていってしまう。それって要は本能なんですよね。私は、本能の部分じゃないと踊ることができない。いくらお金が降ってこようが、「本能のままにできない」と思ったら絶対にやりません。「私はこの人にだったら自分の踊りを捧げたい」とか、ただそれだけです。それがなかったら今も私はここにいれないですし、本能で踊っているからこそ今を生きることができる、っていう感じですね。